仕上がりの硬度について

作り方によって大幅に変わる硬度

『「925」刻印のお話し』でも取り上げましたが、シルバーは加工の入れ方と熱の入れ方で、硬度が大幅に変わる金属です。
実際の数字は下の画像をご覧ください(井島貴金属精錬株式会社さんの銀材カタログより抜粋-Hardは加工による硬化処理、Softは焼き鈍しという軟化処理を指し、HVはビッカーズ硬度で数字が大きいほど硬い-)。

図の数字からも分かるように(SV925Hardのみ異様に硬い)、特に925の硬度幅は、非常に大きくなっています。
ですから、半永久的に使用する結婚指輪をシルバーで作る場合、鍛造のSV925リングが良いなどと言われます。
SV925もSV950も型に流して作る”鋳造”では硬度100HV程度ですが、ハンマーで叩いて成形する”鍛造”で加工硬化させたSV925は硬度150HV以上にもなります。
勿論、鍛造で作れるデザインは非常に限られているので、その他、例えば鋳造で作られた銀歯や銀食器などは、熱処理による硬化作業(時効硬化)が加えられます。

多くの作り手は仕上がりの硬度に無関心

ということは、ハンドメイドでアクセサリーを作る場合、作り方や手順次第で、仕上がりの硬度が大幅に変わるということになってしまいます。
よく、海外のプロの作家の方が、シルバーアクセサリーの作り方を最初から最後まで動画に撮ってYouTubeなどにアップしておられます。
多くの作家が、ロウ付けした後、ジュっとすぐに希硫酸に付けて酸洗いし急冷しています(ロウ付作業の後、必ず薬品で洗う必要があります)。
これは事実上、熱による軟化処理「焼き鈍し」で、硬度がHV80程度まで落ち、かなり柔らかい状態になっています(さらにデメリットを挙げれば、銀ロウが完全に固化し安定する前に急冷すると、見た目には引っ付いて見えますが、非常に脆い組成となり、銀ロウ接合部分の引張強度が格段に落ちます)。
最後の磨き前に電気炉などで焼きを入れて硬化(時効硬化)させるならよいのですが、硬化処理をせず、そのまま作品として仕上げてしまっています。
つまり、強固な鍛造とは正反対に、柔らかく傷つきやすい作品に成ってしまっているということです。
勿論、SV999を使うシルバークレイ(銀粘土)のアクセサリーなどに比べれば、相当硬く、使用や販売に全く問題はありませんが、長期的な視点から見た場合、ある程度の硬さがあった方が末永く使ってもらえるということです。

一般のハンドメイド作家はどうすべきか

温度調整可能な電気炉を持っていれば問題はないのですが、仕上げの硬度を上げるためだけに何十万円も出費するのは、趣味の範疇を超えてきます。
別に特殊な機械が無くとも、制作時に最低限のことを心得ていれば、ある程度の硬度は確保できます。
それは、「最後の一手を加工にする」、あるいは「最後の一手がロウ付けの場合は徐冷にする」という、簡単な方法です。

例えば、小豆(楕円)チェーンのブレスレットを作る場合、「楕円の芯棒に銀線を巻いてカット→ロウ付」あるいは「正円の芯棒に銀線を巻いてカット→ロウ付→サイドから潰して楕円」の二種類の方法が採られます。
前者は最後にロウ付けがくるので、焼き鈍し状態になり柔らかいですが、後者は最後に加工がくるので加工硬化によって硬く仕上がります。
しかし、最後にロウ付けがくる場合でも、銀線が太く冷めるまでに時間がかかる場合(耐火ブロックに蓄熱された反射熱も重要)、ジュっと希硫酸に付けてしまう急冷に比べればかなり硬くなります。
例えば、最もよく使用される五分銀ロウの作業温度は750度ですが、この温度から空気中に放置し徐冷すると100HV以上の硬度になります。
ただ、重量のない華奢なアクセサリーの場合、すぐに冷めてしまい徐冷が難しいため、厄介です。

このように制作工程を考えて作るのが面倒なら、とりあえず適当な手順で作って、最後にバーナーで全体を焼き鈍して徐冷し硬度を上げるという方法もありますが、銀ロウの融点ぎりぎりまで温度を上げてからの空冷でないと硬化は生じにくいのでバーナーの扱いが上手い人でないと難しい作業な上に、ロウ付け部分の劣化が生じるデメリットもあります(見た目ではまったく分かりませんが、内部で劣化しておりロウ付部分が外れやすくなる)。
業者に発注した場合、銀食器のように特殊な硬化処理を加えない一般的な鋳造品は硬度100HV(SV925.SV950)くらいで仕上がってきます。
SV925でもSV950でも、上述のように作る手順さえしっかり気を付ければ、ハンドメイドで普通に100HV以上に仕上がります。
つまり、職人の鍛造リングとはいかないまでも、デパートなどで普通に売っている鋳造量産品のシルバーアクセサリーくらいの硬度は確保できるということです。

 

おわり